「泣きデザイン」って何? ── 合言葉を、みんなが使える5つの判断基準にするまで

こんにちは。デザイナーのけいすけです。
突然ですが、わたしたちデザインチームのアイデンティティであり、合言葉でもあるのが「泣きデザイン」です。
泣き。
悲しい話ではありません。ここでいう「泣き」は、感動のこと。泣くほど心が動くデザインをつくろう、という意味です。
この記事では、そんなちょっと変わった合言葉をもとに、チーム全員が使える「5つの判断基準」をつくるまでの話を書きます。
行動指針やデザインプリンシプルをつくってみたい方のヒントになればうれしいです。
※この取り組みは、わたしとデザイナー3名の、計4名で進めました。
わたしたちのチーム
わたしたちは、ラクーングループのサービスデザインを担当しているチームです。
扱うものは、Webサイトやサービス画面だけではありません。営業資料やチラシなどの紙もの、展示会などのイベントで使うツールまで。
ふだんの仕事は、サービスごとに分かれて進めています。わたしは、売掛保証サービス「URIHO」の制作を幅広く担当しています。
担当サービスの事業部や開発チームと動くことが多いぶん、他サービスチームの人が何をつくっているのか、意外と知らなかったりもする。
だからこそ、「デザインチームとして何を大切にするか」をそろえておきたい。
今回の取り組みは、そんな思いから始まりました。
「泣きって何?」という問い
あらためて、「泣きデザイン」の意味から。わたしが数年前に入社するより前から、チームで大切にされてきた言葉です。
ユーザーも、社内のみんなも、仲間も、自分も、
みんなが「泣くほど感動する」プロフェッショナルなデザインをしよう!
ポイントは2つ。
- 「感動させること」がゴール
- 「プロフェッショナルであること」は、そのための手段
なんとなくよさそう、で終わらせない。プロとして根拠を持って、人の心を動かす。それが泣きデザインです。
……と、ここまではとてもいい話なのですが。
この合言葉は、「めざす姿」を表した大きな旗印です。旗としてはわかりやすい。でも、いざ手を動かす段になると、ふと迷う。
Webページをつくるとき。営業資料をつくるとき。展示会の準備をするとき。
「で、泣きデザインのために、具体的に何をすればいいんだっけ?」
そこでわたしたちは、泣きデザインを日々の仕事で使える「プリンシプル(行動指針)」に分解することにしました。
そもそも、プリンシプルとは
プリンシプルは、「原理」「信念」といった意味の言葉です。組織を運営するときの考え方や、行動の指針のこと。何を大切にするかを先に決めておけば、全員が同じ方向を向いて仕事を進められます。
デザインの分野では、プロダクトやサービスをつくるときの判断基準を言葉にしたものを「デザインプリンシプル(デザイン原則)」と呼びます。だいたい3〜10個ほどの短い言葉でできていて、よく挙げられる役割には、たとえばこんなものがあります。
- デザインの一貫性を保つ
- 迷ったときの判断を早くする
- 「なぜこのデザインなのか」を、チームの外にも説明しやすくする
国内外の多くの企業が、自社のデザインプリンシプルを公開しています。
わたしたちのプリンシプルの特徴
公開されているデザインプリンシプルは、「プロダクトをどうつくるか」の原則が多い印象です。「シンプルであること」「ユーザーに寄り添うこと」のように、画面や体験のあり方を決めるものが中心。
わたしたちのプリンシプルは、少し性格が違います。
対象はプロダクトではなく、「デザインチームとしてどう動くか」。だから、ユーザーへの向き合い方だけでなく、社会・事業・仲間、そして自分自身への向き合い方まで含めました。
担当サービスも、つくるものも、メンバーごとにばらばら。特定のプロダクトに閉じない「チームの行動指針」が必要だったのです。
プリンシプルのつくりかた(5ステップ)
ここからは、実際のつくり方を順番に。
ステップ1:当時の資料を読み直す
まずは、泣きデザインが生まれたころの資料を読み直すところから。どんな定義で始まり、これまでどんな活動をしてきたのかを整理しました。
やってよかったこと
ゼロからつくるのではなく、「すでにある言葉を育てる」。このスタンスを最初に持てたこと。
ステップ2:言葉をつくったメンバーに、込めた思いを聞く
次に、泣きデザインという言葉をつくったメンバーに話を聞きました。
聞いたのは、主にこんなこと。
- どんな背景で生まれた言葉なのか
- なぜ「泣き」だったのか
- いま振り返って、どうなってほしいと思っているか
わかったのは、もともと「デザイナーが何を大切にしているかを、言葉でそろえたい」という思いから生まれた言葉だった、ということ。
今回やろうとしていることと、ちゃんとつながっていました。
やってよかったこと
元の思いを確かめてから進めたので、言葉への敬意を保ったまま中身を更新できたこと。
ステップ3:部の全員で、大切にしている価値観を書き出す
続いて、部のメンバー全員が参加するワークショップ。オンラインホワイトボード(FigJam)を使い、一人ひとりが「仕事で大切にしていること」を付箋に書き出していきます。
ボードが、カラフルな付箋でどんどん埋まっていく。並んだのは、たとえばこんな言葉です。
- 「わかりやすい」「むずかしくない」
- 「ユーザー目線」「直観的」
- 「定量的」「数字につながる」
- 「助け合い」「相談しやすい」
- 「成長環境」「チャレンジ」

やってよかったこと
全員の言葉からつくったので、できあがった指針が「上から渡されたもの」ではなく、「自分たちの言葉」になったこと。
ステップ4:「感動」を軸に、5つの方向へまとめる
集まった言葉を、泣きデザインの「感動」を軸にグループ分けします。
切り口は、「だれに感動してもらうか」。そうやって整理していくと、5つの方向にまとまりました。
- 社会への感動
- ユーザーへの感動
- 組織/事業への感動
- みんなへの感動
- 自身への感動
5つはばらばらではありません。泣きデザインを中心に、互いにつながり、支え合っています。
感動ごとに、付箋の「声」と「キーワード」を1枚にまとめました。たとえば「社会への感動」には、「理解しやすい」「むずかしくない」「安心」「信頼」といった言葉が集まっています。

やってよかったこと
軸を「感動」に固定したこと。たくさんの言葉が、泣きデザインからずれずにまとまりました。
ステップ5:5つの方向を、プリンシプルの言葉にする
最後に、5つの方向をそれぞれ1つのプリンシプルとして言葉にしました。中身は、この4点セットです。
- 指針の言葉(例:常識と向き合う)
- 英語のワード(例:Society)
- 3行の説明文
- アイコン
説明文は、ステップ4で集まったキーワードをもとに書いています。
やってよかったこと
言葉・ワード・アイコンをセットにしたこと。短い言葉でも、ぱっと思い出せるようになりました。
5つのプリンシプル
こうしてできあがったのが、この5つです。
1. 常識と向き合う(Society)― 社会への感動
理解しやすく、むずかしくない、当たり前にいいものをつくりましょう。
社会に受け入れられる価値は、感動につながります。
客観的で一般的な基準を忘れないようにしましょう。
もとになった言葉の一部
「理解しやすい」「むずかしくない」「安心」「信頼」「一貫性」「再現性」
2. 人の役に立つ(Useful)― ユーザーへの感動
迷わずに気持ちよく進める体験を届けましょう。
安心やスムーズさは、小さくとも確かな感動になります。
使いやすく役に立つことで、ユーザーの期待に応えましょう。
もとになった言葉の一部
「ユーザー視点」「使いやすい」「ストレスがない」「直観的」「見やすさ」「心地よい」
3. 数字で話す(Count)― 組織/事業への感動
価値が正しく伝わるように、共通言語を数値にしましょう。
情報を意味のある数値に変換することで、成果としての感動に変わります。
定量的な視点で、コミュニケーションに数値を利用しましょう。
もとになった言葉の一部
「定量的価値」「成果」「数字に貢献」「課題発見」「根拠」「優先順位」
4. 仲間になる(Partnership)― みんなへの感動
互いを敬い、信頼し合える関係を育てましょう。
相手の状況に寄り添った言動は、積み重なって感動を生みます。
どんなときにも自然に支え合い、任せ合いましょう。
もとになった言葉の一部
「相談しやすい」「助け合い」「尊敬」「信頼関係」「情報共有」「目的と手段の確認」
5. ずっと成長する(Evolving)― 自身への感動
自分を更新し、可能性を伸ばし続けましょう。
昨日より前へ進んだ実感は、自身に向けた静かな感動です。
学び、試すことで、新しい視点と選択肢を増やしましょう。
もとになった言葉の一部
「成長環境」「チャレンジ」「勉強会」「発信」「交流」「多様性」
5つは、どれか1つを守ればいいというものではありません。泣きデザインを中心に5つがそろって、はじめて「みんなが泣くほど感動する」デザインに近づける。わたしたちは、そう考えています。
使いはじめて
新しく入った人向けの資料にまとめる
できあがったプリンシプルは、まずスライドで部内に共有。そのあと、新しく入った人向けの資料(社内Wiki)にまとめました。
Wikiにするとき、1つ足したものがあります。「具体的なアクション例」です。
指針の言葉だけだと、「明日から何をすればいいか」がまだ少し遠い。そこで、プリンシプルごとに、日々の仕事でできる行動を3つずつ書き加えました。一部を紹介します。
- 常識と向き合う:専門用語や社内だけで通じる言葉ではなく、その分野を知らない人も理解できる言葉を使う
- 人の役に立つ:つくったら自分で使ってみて、「次に何をすればいいか」迷わないかを確かめる
- 数字で話す:提案や相談をするときは、「どの数字に影響するか」をセットで言う
- 仲間になる:人に何かを頼むときは、相手が判断に困らないよう「対象・箇所・背景・期限」をそろえてから渡す
- ずっと成長する:もらったフィードバックは、その場で直すだけでなく、次に活かせる形に残す
Wikiでは、各プリンシプルの下に「説明 → アイコン → アクション例」が並ぶ形に。考え方と行動を、ひと続きで追えるようにしています。
意識が、少しずつ変わってきた
正直に書くと、プリンシプルはまだ使いはじめたばかりです。目に見える成果を語れる段階ではありません。
それでも、わたし自身の仕事の向き合い方は少し変わりました。
提案やレビューの前に、ふと「これはどのプリンシプルにつながるだろう」と考えるようになった。小さな変化ですが、たぶん、こういうところから始まるのだと思います。
これから期待していること
プリンシプルがチームに根づいたら、こんな状態になるはず。
- 判断が早くなる:判断の軸があることで、レビューや意思決定がスムーズになる
- 説明が楽になる:「なぜこのデザインなのか」を、共通の言葉で説明できる
- 理由が共有できる:期待のズレを先に防ぎ、チームの判断基準として共有できる
- 新しく入った人が迷いにくくなる:人によらない判断基準が、育成やオンボーディングの軸になる
つくる過程そのものが「仲間になる」だった
振り返ってみると、いちばん価値があったのは、つくる過程そのものだったのかもしれません。
言葉をつくったメンバーに話を聞く。全員で付箋を書く。みんなの言葉を、5つにまとめる。
その一つひとつが、気づけばプリンシプルの「仲間になる」を、そのまま実践する時間になっていました。
おわりに
泣きデザインのスライドの最後には、こんな一文があります。
泣きデザイン プリンシプルで、感動を、再現できる判断基準へ。
感動は、ふだん感覚で語られがちなものです。それを、チームのだれもが使える判断の基準にしていく。わたしたちは、いまその途中にいます。
もし、あなたのチームにも「みんな知っているけど、中身は人それぞれ」な合言葉があったら。この記事の5ステップが、それを育て直すきっかけになればうれしいです。
ちなみに、あなたのチームにとっての「泣き」は、なんですか?
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