RACCOON TECH BLOG

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エンジニア出身者がデザイナーの業務と出会って得た5つのこと

こんにちは、たむらです。
今回は元々はエンジニア出身者の私が、デザイナー部署のマネジメントをするようになったことで得たことをまとめてみたいと思います。

私は元々は運用周りなどを好んで担当するエンジニアをしていましたが、ここ最近のキャリアでは開発チームのマネージャ、いわゆるVPoE的な役割を担当してきました。ところがちょっとした大人の事情から2年程前よりデザインチームのマネジメントも担うことになりました。私はデザインという業務に関しては全くの素人です。そこで、実業務は基本的に現場のデザイナーに任せ、私は主に体制づくりや組織的な課題解決をする役割をしています。

しかし、デザイナーと接点を多く持つ中で、今迄私が持っていなかった新しい気付きを得ることができています。当初は何か成果を出せるのか?という不安もあり部門運営は気が重かったのですが、今となってはデザイナーの業務を知ることで得られた知見が非常に大きな財産だと思えています。

トピック毎にご紹介します。

1.デザインというものの認識の仕方

まずはここからなんですが、”デザイン”という言葉を聴くとどうしても日本では「意匠」(=審美性、創造性、インスピレーションや感覚、といったもの)の様に捉えてしまいませんか?私もデザインは「設計」という意味を持つことを認識してはいつつもデザイナーを見る際には、理論よりは感性を大事にする職種という見方を少なからずしていました。ですが、デザイナーは様々な理論や技法を用いてある目的を達成するために設計する職種なのだという認識を改めて持ちました。

例えばWebサイトのボタンを一つ制作するだけでも、デザイナーは

などなど多くの論理的な要素を根拠にして制作をしています。もちろん感性や創造力の要素も制作上重要だと思いますが、言語化できる要素も多く、デザイナーと非デザイナーで共有できるものもとても多いのだと気付かされました。

この様な論理性と創造性をミックスして目的に叶う成果物を作る人がデザイナーであり、まさに「設計者」と呼ぶのに相応しいと思います。

2.エンジニアとデザイナーの正解の違い

エンジニアが開発で追求することって何でしょうか?ジェラルド・ワインバーグは「ソフトウェアの品質は主観的なものである」と言っていますが、私は普遍的な言葉で言えば、

辺りに尽きるのではないかと思います。ソフトウェアは早ければ早い程良いですし、間違ってないものを作るべきなのは当然ですよね。そんな意味でエンジニアリングには普遍的な追求すべきゴールが定まっていると思います。
(「そんな単純なものじゃねーよ!」というマサカリ⚡が飛んできそうですが、エンジニアリングの難しさは重々承知してますのでご容赦下さいw)

一方、デザイナー業務はどうでしょうか?
デザインに於いても、「誰もが使いやすい」、「目的に叶う」といった普遍的なゴールはあります。
が、その実現方法に関しては、例えばフラットデザインやマテリアルデザイン、ミニマルデザインなど、トレンドがあります。エンジニアリングでもフレームワークや言語などでトレンドが勿論ありますが、あくまで性能の向上が背景にあるのに対し、デザインの場合は性能以外の要素で、ある時には価値が届けられていた手法が時や場所、対象者の違いにより価値が転変してしまうのです。

当り前に聞こえると思いますが、この「デザインに普遍的な評価ができない」という点はエンジニアリングとデザインの大きく異なる部分だと感じました。エンジニアリングでもアジャイル開発がかなり一般的になっていますが、常に変えていかなければならないデザインこそアジャイル手法の親和性があるのではないかと思えます。デザインスプリントやMVPといったデザイン業界の取組みはまさにそれを表しているのでしょう。

3.UXやUIについてより深く知ることができた

UXは近年、デザイン界隈だけでなく、様々なシーンで良く聞くワードとなっています。こちらについてもデザイナーが昨今意欲的に取り組んでいる分野であるため、より深く知見を得るきっかけとなりました。

以前は、「コンバージョンや利便性を上げるためのUIを設計する」という様な文脈でUIという言葉が使われていたと思いますが、それが近年ではまずユーザーにどの様な価値体験をさせるか?というUXに始まり、その為にどの様なUIが適しているのか?といったように検討の深さが掘り下げられてきていると思います。また、UXは時間軸の考慮や画面と処理の相互関連性などが重要な要素になるので、サービスの有り様を包括的に捉える視点として有効です。そのため、制作関係者みんなが同じ景色を共有するのに使える概念でもあると思います。

開発の時には、「何ができるか?」という点で要件を判断していることが多かったと思いますが、UXという概念を知ることで「どの様に体験させるか?」という観点を持つことができ、対象となるユーザーをより考えられる様になったと思います。デザイナーだけではなく、プロダクトオーナーや開発者でも必要な考え方だと思います。

4.考え方の幅が広がった

デザイナーの考え方を知り、自身の考え方の幅が広がったと思います。特に印象深かったのは次の2つです。

行動経済学

日本でも随分前に流行ったものだと思いますが、UXを学んでいく過程で深く興味を持つようになりました。とにかく凄く面白いです。行動経済学は経済学に心理学の要素を取り込んだもので、理屈だけでは説明できない人間の行動を解明しようとするものです。例えば、男子小便器の中に的のシールを貼っておくと自ずとそこを狙うようになるので清潔に使えるというもの(ナッジ理論)や、最初に高い金額を見せることでその後の価格を安く見せるというアンカリング、誘導したいもの側に囮を置くことでそちらに無意識に誘導させてしまうという囮効果など、システムやサービスを検討する際に非常に役に立つ理論が溢れています。

エンジニアが開発したものの8割は全く/殆ど使われないというデータが良く使われますが、作る/作らないだけでなく、いかに作らずに目的を達成させるか?を考える上でデザイナー以外でも学んでおいて損はないものなんじゃないかと思っています。

知りたいって方は、ダン・アリエリー著の不合理三部作 辺りが興味を加速させるのに個人的にオススメです。

デザイン思考

このワードも既にかなりの認知度あるものになっていると思います。良く使われる説明としては ”制作する際の「デザイナー」的な考え方や方法論であり、ユーザーにフォーカスするもの”、更には”プロダクトやビジュアルの制作だけでなく、経営やマーケティングなどビジネス領域にも応用できるもの”とかだと思います。この説明にある通り、デザイン職種外での注目が集まったことで認知度が上がった面があるのですが、「で、結局どういう価値が創出できるものなの?」というと「はて・・・?」という人も多いのではないでしょうか。私も幾つか書籍を読んだり話を聞いたりしましたが、正直未だに腹落ちしていない感覚があります。

現時点での「デザイン思考」に対する私の理解はこうです。

デザイン思考を紹介したグッドパッチさんのblogでデザイン思考の広がりに関して以下のような話が述べられていました。

ほんの数十年前迄はモノが常に不足している状態で無いモノを作るだけで商売として成り立っていました。しかし現代はあらゆるものが簡単に手に入り、モノに溢れた時代です。そんな中でモノを買ってもらう為にはユーザーに注目し本当のニーズを汲み取りモノを作る必要があります。そこでデザイン思考の様なアプローチが注目されているのです

私は非常に納得できる説明だと思えたのですが、いかがでしょうか。

もう一つ個人的な感想を述べると、この「デザイン思考」というのは上記の私の見解の通り、謳われていること自体は格別目新しいものではありません。ただ、それらをまとめてデザイナー視点という切り口でリデザインすることで新しいコンセプトを提供しています。そして、この事がデザイナー自体のブランディングとしても一つの効果を産んでおり、そこも面白いと思えました。

d.schoolのデザイン思考のダイアグラム

5.デザインの奥深さを知った

上でもデザイナーがいかに様々なことを考慮してものを作っているかについて述べましたが、デザインは本当に奥が深いです。機能を超える効果を生み出す力もあり、デザイナーと接して感じたその奥深さの一端を紹介します。

余白の大事さ

デザイナーのスキルマップを検討していた時のことです。デザイン品質を決めるスキルを考えていた時に、「余白・バランス感・色彩感覚」という要素がデザイナーからでてきました。そこからデザインにおいて、余白を非常に大事にしていることを知りました。色彩感覚やバランス感などは何となくイメージが湧きやすかったのですが、良いデザインの要素として早々に「余白」という言葉がデザイナーから出てきた時に意外だった反面、成程と思う部分もありました。例えば素人が何かを描こうとするとスペースを埋める感覚で描いてしまいますが、彼らは要素を絞ってものを作っているんだなと思えたのです。プログラミングもよりシンプルでアトミックなものが尊ばれますが、同じ方向性の話なのかもしれないですね。

リサーチや効果測定のスキル

これもUX関連でより際立ってきている部分だと思いますが、エンジニア界隈よりもより主体的に動けている部分じゃないかと思えます。ユーザーインタビューや、ペルソナ、ユーザビリティテスト、アイトラッキング、ヒートマップなどなど・・・。エンジニアであれば、どれも何となく知っていたり何となくやっていたりするものが多いけど、詳しくは説明できないというものが多いのではないでしょうか。実際にはリサーチャーやアナリストという専門職ができる程、リサーチや効果測定は専門性の高いものだと思いますが、デザイン上有効なスキルとしてデザイナーはうまくキャッチアップをしていると感じました。Google Search Console や Google Analyticsだけに留まらないこういったスキルはより品質の高いプロダクトに寄与しているのだと思います。

Webアクセシビリティ

恥ずかしながら私は「Webアクセシビリティ」と聞いたとき、”使いやすさ”、”音声読み上げ”位しかイメージが出てきませんでした。

Webアクセシビリティの一般的な定義は以下のようなものの様です。

使いやすさや利用しやすさ。また、ソフトウェアやシステムが身体や能力の違いに依らず、すべての人から同じ様に利用できる状態や度合いを示す

「Webシステムに於けるユニバーサルデザイン」といったものでしょうか。

ちなみに、W3Cからも Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0 といったものも提示されています。(但し、こちらは技術的な領域に立ち入っておらず、あくまでコンテンツについてのガイドラインになっており、最新版も2008年のものでかなり古いです)

このWebアクセシビリティですが、実現するためには非常に緻密なデザインが必要なのだということに気付かされました。

「色」を例に挙げます。

まず、色覚異常や視覚障害に関する考慮です。例えば先天赤緑色覚異常は日本人男性で約5%の割合で存在すると言われていますが、この症状がある場合、赤や緑の色の識別が困難になります。その様な人にも正しく誘導できるUIを設計せねばなりません。

色覚によりどの様な見え方になるのかの例

更に国毎の色の印象差異も考慮が必要です。日本では赤色を 激情、警戒、(男性「青」に対して)女性 といったようにイメージすることがありますが、これは国毎に持つイメージが異なります。そのため世界で使ってもらうコンテンツを作る際にはターゲットとなるユーザーがどの様にその色を捉えるかを意識する必要があります。

更に更に、ユーザー閲覧環境の多様化も考慮が必要です。デバイスの多様化はますます進んでおり、更にはダークモードといったブラウザのユーザーカスタマイズまで登場して、ユーザー閲覧環境の多様化は凄まじいものがあります。W3Cのmedia featuresの設定周り でCSSのメディアクエリに多種多様なルールが定義されていることはこの状況を表しているのだと思いますが、もはや数台の検証機で画面確認をすれば品質保証ができていた時代は終わりを迎えつつあるのではないかとすら感じます。貴方が設定した赤色はユーザー側の設定変更により期待通りに表示されていないかもしれないのです。

その様な状況の中で、デザイナーはユーザーにアクセシビリティを落とさない品質のUIを提供し続ける必要があるのだと知りました。

余談ですが、ラクーングループはB2Bのサービスを提供しています。つまり「仕事で使う」サービスです。そのため、生まれた国の違いや少しの身体の違いが理由でサービスが使えないことは、同時に仕事ができなくなることを意味します。私達はサービスを「世の中に無くてはならないインフラの様なサービス」にしていきたいという目標を掲げていますが、多くの人が等しく使えるサービスにするためにもアクセシビリティの重要性を痛感しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?デザイナーと接点を持てたことは、私にとってはエンジニアリングだけでは知り得なかった色々なことを学ぶきっかけとなったという話でした。
デザイナーの凄さを改めて感じるとともに、プロダクトを成功させるためには、様々なスキルを持つ人々と協業してお互いの強みを生かすことが大事だと感じます。エンジニアであればプログラミングやシステムのスキルを高めることが一番大事なのは間違いありませんが、たまに別の職種のナレッジにも興味をもってみるといい刺激になるかもしれません。

それでは!

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