『Psycology For Designers』の要点
こんにちは、たむらです。元々はエンジニア側の世界にいましたが、今はデザイン戦略部のマネジメントも行っています。
デザインやUXを学んでいる過程で、Joe Leech著の「Psycology For Designers」という本のことを知る機会があったのですが、日本語訳が無かったので自分で使うための翻訳を試みてみました。ここではその要旨を紹介してみます。
ざっくりしたまとめ
- 心理学(やそれに類する学問)はUXやデザインに大きな効果を与える。正しく使おう
- デザイナーは心理学を学ぶことでユーザーにデザインがどの様に作用するかという予見を得ることができる。
- デザイナーが心理学を用いる為の手引きとして心理学の紹介、心理学関連の読むべき本の紹介、デザインの根拠を得る為の普遍的な方法などを紹介している
心理学の分野・学派
- 認知心理学:精神的な作用に関する科学
- 社会心理学:社会という文脈の中で、人がどの様に存在しているかを捉える
- 行動経済学:経済に心理学を適用しようとしたもの
- 行動主義:発育が行動を規定する。バラス・スキナー(アメリカ心理学者)の理論
- 心理力学:個人の心の動きの深淵(記憶や衝動が行動を形作っている無意識下での考えといったもの)に着目している。心理療法などに用いられている
- 発達心理学:人の一生における変化と心理の変化を関連付けて捉える
心理学の用い方。調べ方
- 調べたいことをググる。wikipediaで調べる
- グーグルスカラー(学術論文の検索に特化したグーグル)で更に調べる
- 要約を読んで適切な論文を見つける
- 論文の引用文や参考文献を辿る。CiteseerX(科学論文の検索エンジン)を使うのも良い
- 引用や参考文献の著者の論文を辿る。著者は上部にかかれている人から当たるのが望ましい。
- 論文は、過去を振り返る部分と、著者の研究成果を載せられている部分で大体パートが分かれるので後者を効率よく摘む
- 著者の論文の引用や参考文献を辿る(繰り返し)
※(たむら注)これは一般的な調査研究の辿り方としてほぼ共通のフローなんだと思います
デザイナーが読むべき心理学の本
- 入門クラスの教科書
リチャード・グロス 『心理学:心と行為の科学』 ※英語 - 専門書的な本
ジョン・アンダーソン『認知心理学とその影響』 ※英語 - ディープな教科書
マイケル・W・イーセンクとマーク・T・キーン『認知心理学:学生向けの手引き』 ※英語 - HCIの入門として最適
アラン・デイックス『Human Computer Interaction』 ※英語 - 最高傑作
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』 - 動機についての研究
ダニエル・H・ピンク『Drive』 ※英語 - 行動の変化について
リチャード・H・タラーとカス・R・サンスタイン『nudge』 ※英語 - 適正価格についての検討
レイ・コールドウェル『価格の心理学』 - デザイナーにうってつけ
ウイリアム・リドウェルとクリテナ・ホールデン、ジル・バトラー『デザインのユニバーサル原則』 ※英語 - デザイナーにうってつけその2
スーザン・ウェインチェンク『インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針』
心理学を学ぶための方法
- オンライン。MITやエール大学などの教授がポッドキャストやYoutubeなどで講義を挙げてくれている。
- HCIはデジタルデザイナーにとって最も適した学科かも。学ぶならスタンフォード大学はCourseraコースの「Human-computer interaction」など。
- 大学に復学するのはデザイナーとしてのブランクを作ってしまうのでお勧めしない
- 著者のサイト
デザイナーとしてうまく心理学を使うために
- デザイナーが心理学を用いたデザインの説明をする際に必要なこと
- 簡潔にする
- ストーリーとして伝える
- 多変量テストは量的調査。正しいかどうかを測る為に用いる。ユーザテストは質的な調査。理解を深めるために使えるが無意識的な行動などの把握は難しい。ホーソン効果の影響などを受ける
脳について
- 人間の脳は3つ(思考・感情・本能)という主だった部分に分けられる
- 大脳基底核:本能を司る。単純な生存の為の行動や即断はこれらに制御されている
- 大脳辺縁系:感情を司る。ポジティブ、ネガティブな経験の記憶と行動を連携させる。パブロフの犬的なのはここで処理されている
- 新皮質:思考を司る。思考は非常に大きなエネルギーを消費する。認知負荷を与えすぎると人はSTOPしてしまう。(=シンプルなデザインであることが必要)
※(たむら注)心理学が脳の構造や人間としての仕組みと関連しており、デザインを突き詰めていけばそこ迄意識して検討すべきなのだ、という話
適切なUXの例
- SiriとGoogleNowの違い。GoogleNowは代名詞が理解できる。ex) 巨人の監督は誰? > 「原辰徳」 > 彼何歳? > 「61歳」
- お互いが何を知っているかを予期していること(共通理解)がUXやデザインでは必要
※(たむら注)余談ですがVoiceUIは各スマートスピーカー毎にインテントの重視など、設計思想がだいぶ異なるという話を聴いたことがあります。上記の差異も設計思想に基づくものだと感じます。
全てのデザイナーが知るべき4つの心理学の神話(虚構)
1. マズローの欲求階層
- マズローの欲求階層は理論的根拠がほとんどない
- モデルの各部分に対する証明が自己実現に関する部分以外何も見つかっていない
- そもそも自己実現って個人主義的な考え。アジアの集産主義とは相容れなそうで人や社会に依存する理論なのでは?という疑問あり
2. ジョージ・ミラーの数字7±2
- ナビゲーションメニューの数は幾つにすべきかでよく使われるセオリー
- ミラーの要点は、7という数は度合いや騒がしさ、明るさ等などの一次元的な刺激の制限で、即座に思い出せる大きさであり、書かれた文章を理解するための人の許容量に関するものではない
- つまり、ミラーの数字をナビゲーションメニューの数の話で利用するのは間違いである
3. 左脳なのか右脳なのか
- 左脳は『論理・分析・順番・数学・事実・言葉・計算』を司り、右脳は『創造性・想像力・直感・芸術・音感・感覚・具象化』を司る・・・というが、実はこれに関しての理論的根拠はない。
4. マイヤーズ・ブリッグスのテスト(MBTI(Myers-Briggs Type Indicator))
- 人々を4つのグループに分け、2つの異なる個性の特色によりそれぞれのグループから1つを選ぶことで行う性格診断
- これは学術的にも科学的にも何の裏付けも持っていない
感想
心理学系の論説をデザインに活かす方法としてあくまでやり方を教える為の本で、セオリーなどはほぼ載っていません。そちらを期待する方は上記に記載の個別の心理学の本を参照された方が良さそうです。
ただ、デザインは奥が深くて面白いものだということをこの本を通して改めて感じました。ビジュアルだけでなく人間工学や心理学を学ぶことでより効果的で適切なデザインを作ることができるのだと思います。とはいえ、デザインやUIは非常に感覚的な部分やバランスが影響するのもまた事実だと思うので、デザインって難しいですね。。。
素人なので誤訳等々は多分にあると思います。興味や疑問に思った方は是非原著をご確認ください。小冊子なのであっという間に読めると思います。
それでは!