インハウスデザイナーがやっている要件整理法
こんにちは、デザイン戦略部の大沼です。
突然ですが、デザイナーの先輩や上司にこんなことを言われたことはないでしょうか。
”指示された通りに作る作業者になっちゃだめだよ”
”要望をちゃんと汲み取らなくちゃ”
納得はできるけど、具体的にどうしたらいいか分からないという方もいるのではと思います。
以前、部内の勉強会でも「事業部の要望に対してこの改修案で本当にいいのか悩む」「意見が分かれた時どう判断したらいいか難しい」という声があがったことがありました。要望を正しく汲み取ることは事業会社のデザイナーにとって重要なソフトスキルですが、実際のところ各人の経験則に任されている部分が大きく、デザイン技術に比べると知見の共有がしづらい部分だと感じています。
そこで今回は、要件を整理する際に私がやっていることをご紹介します。考える軸を持って進めたい、より納得感を持って提案したいと思っている若手デザイナーさんに向けた内容になっています。少しでも日々の業務の助けになればうれしいです。
案件概要を4つの要素に分解
まずは案件を交通整理するイメージで、〈 客観的事実 〉〈 ゴール・目的 〉〈 仮説 〉〈 手段 〉に分解します。
改善系の要望は事象が違うだけで考える筋道は同じなので、基本的にはどれもこの構造に分解可能です。
現状「 ××〈 客観的事実 〉」な状態。
なので「 〇〇〈 目的・ゴール 〉」をしたい。
おそらく「 ◇◇〈 仮説 〉」と考えられるので
「 △△〈 手段 〉」することで改善したい。
※ 客観的事実= 現状起きている課題の根拠となるデータ
これをやるメリット
- 複雑にみえるものも単純化でき理解しやすくなる
- 事業部メンバーと認識のすり合わせがしやすくなる
- デザインで迷った時に立ち戻って考える判断基準になる
注意深く聞くべきポイントがこの4つだと思ってください。特に〈 目的・ゴール 〉は最も重要です。
作業内容だけ聞いて終わってしまいがちな方は、これらを打ち合わせで意識的に確認するようにすると良いと思います。
具体例をあげて分解してみましょう
事業部からこんな相談がきたとします。
「最近会員登録が落ちてるんですよね。たぶん登録ページに問題があると思うんだけど。今ステップ式になっている入力画面を
1ページに統合してクリック数を減らしたらどうかと思ってるんですよね。項目もこれ以上削れないので、修正お願いできますか。」
これを4つの要素に分解すると・・
最近会員登録が落ちている =〈 客観的事実 〉
なので会員登録(数? / 率?)を上げたい =〈 ゴール・目的 〉
おそらくクリック数を減らせば上がるのでは? =〈 仮説 〉
ステップ登録をやめ入力画面を1つにまとめたい =〈 手段 〉
本筋に関わりが薄い枝葉は切り落として簡潔に書きだすのがポイントです。上から読んで意味が通るようにします。
こうやって分けてみただけでも、頭の中が整理されて考えやすくなったと思います。と同時に、最近っていつだろう?会員登録って登録数?登録率のこと?というような疑問もいくつか浮かんできたのではないでしょうか。相談者がやりたいことを適切に汲み取るには、まだ情報が粗いようです。分解したら次のようなことを点検してみてください。
分解した内容を点検する
欠けている要素がないか、筋道に矛盾がないか
もし不足があったり、文章としてねじれや矛盾があった場合は相談者とさらに議論して調整します。〈 ゴール・目的 〉に作業内容を書いてしまっていないか、〈 手段 〉はちゃんと〈 ゴール・目的 〉に繋がっているかどうかにも注意してみてください。
曖昧な言葉は認識を合わせる
相談者は「最近会員登録が落ちている」と言っていました。私なら念のため「登録」=「登録率」で合っているか確認します。たいていはCV率(登録ページに訪れたユーザーのうち登録に至った割合)で測ることが多いですが、「登録数」にこだわる合理的な理由がもしかしたらあるのかもしれません。細かいですがたった一語でも意味は異なりますし、認識のズレは得てしてこんなことから生まれてしまうものです。きっとこういうことだよね?と思った時は勝手に解釈せず確認しておくことをおすすめします。(自戒も込めて)
各要素の精査 ー〈 客観的事実 〉
現状を正しく把握するには、客観的事実を示すデータを集める必要があります。事業部からのヒアリングから、「最近会員登録数が落ちている =〈 客観的事実 〉」と分解しました。しかしこれだけでは本当にそうなのか判断できません。調査データは相談者に共有してもらいましょう。調査方法についてはここでは書ききれないので省きますが、現状を見誤ると〈 ゴール・目的 〉や〈 手段 〉に影響するので、万が一無い場合はできる範囲で自分で調べてみましょう。
今回の例ならこんなことが知りたいです
- 最近て具体的にいつからだろう?(何か変更を加えたっけ)
- 会員登録数は落ちてるけど、登録率はどうだろう?
- ステップ入力の1ページ目と2ページ目で離脱率が多いのはどっちだろう? など
各要素の精査 ー〈 ゴール・目的 〉
ゴールを明確にしたら、改修後に何の数値がどうなっていれば成功と言えるのかも相談者と決めておきます。事業部が持つKPIがそのままデザインの測定指標になる場合もあれば、デザインでは直接解決しづらいものもあります。その場合は事業部のKPIに紐づく、かつデザイン変更が直接影響を与える数値をデザインの効果測定指標として設定します。
例えば特集ページの場合。制作物はメインビジュアルとTOPに設置するバナーで、事業部が持っているKPIは売上だとします。売上は商品自体の引きや価格などの影響も多分に受けるため、純粋なデザインの測定指標とするには少し遠い気がします。
では売上の構成要素の中に、デザインで寄与できそうなものはあるでしょうか?
売上 = 購入金額(購入回数 × 商品単価 × 個数) × 購入客数
購入客になりうるユーザーを特集ページに多く呼び寄せて購入”機会”を増やすという点では、バナーの質や配置が影響しそうじゃないですか?と考えれば、特集ページへの流入率をデザインの効果測定指標と設定することができます。
なぞなぞを解いたら答え合わせしたくなりますよね?解答を見ずに問題だけ解き続ける人はそういないと思います。合ってたら嬉しいし、間違っていたとしてもそこで得た気づきは意識せずとも次の問題に生かそうとします。それと同じで、自分がやったこと(=デザイン)に対する直接的な成果がどれだけ測れるかが、この好循環を生み出すキモだと個人的には思うのです。なぜならその納得感がモチベーションに繋がるから。私の場合は、これを意識的にやるようになってから自然と検証するのが楽しみになった気がします。
各要素の精査 ー〈 仮説 〉
提示された仮説が客観的事実(調査データ)と繋がっているか確認します。例えば当初の見立て通り登録数が減っていて、かつ広告の設定もフォームへの流入数も変動がないのなら会員登録率を改善すべきと言えます。しかし仮に登録率は下がっていなかったことが判明したとしたら、この時点で手を打つべきはフォーム自体ではなく流入数だと考えられます。
当たり前のことではありますが、〈 仮説 〉というのは知っているデータと、それをどう解釈するかでまるで変わってしまいます。それだけを専門にする職種もあるぐらい奥が深いものなので、まだ調査の経験があまりない方は定量データと相談者に提示された仮説を照らし合わせて、自分なりに考察してみるところから始めてみると良いかもしれません。
各要素の精査 ー〈 手段 〉
この〈 手段 〉を取ることで生じ得る他への悪影響がないか考えます。今回の例で相談者が提示した手段は、今より離脱率が上がるリスクをはらんでいます。想定されるメリットデメリットを天秤にかけて手段を調整しましょう。相談者の意向だけを汲みすぎてターゲット以外のユーザーに不利益が出てしまっていないか(例:主要導線が埋もれるなど)も注意深く点検したいです。部分最適を重ねていくと全体としての整合性はどうしても崩れてしまうので、そこをコントロールするのもデザイナーの役割かなと思っています。
また、事業部から〈 手段 〉ありきで相談を受けた際、よくよく〈 ゴール・目的 〉を聞いて検討してみたら他にベターな〈 手段 〉があった、ということがしばしばあります。慣れないうちは見逃してしまいがちなので、”手段が目的化していないか”にも注意を向けてみてください。
さいごに
いかがでしたでしょうか。まずは案件を4つに分けて整頓して大枠を捉え、そこから詳細を精査していくという方法をご紹介しました。すべての案件でこれらを100%気を付ける必要はないと思っています。案件のボリュームや優先度によってかけるべきコストも変わりますので、この部分は念入りに確認しておこうとか、ご自身の状況に合わせて使えそうなところをピックしてもらえたらと思います。
さいごに、部内用に作った要件整理シートを公開します。
ヒアリングから振り返りまで使えるようになっていますので、よろしければご活用ください。
参考になった書籍と記事のご紹介
要件定義のハウツーものではないので直接役に立つか分かりませんがご参考までに。
当時はプロジェクトマネジメントやPDCA系の記事もかいつまんで読んでいたように思います。
▼書籍
「メタ思考トレーニング」
あらゆる事象を構造で捉えたり、課題に対する視点を一段あげて新たな発想を生みだす方法について解説されています。
なんとなく頭の中でやっていたことがつまびらかにされて、読みものとしても面白かったです。
「世界一やさしい問題解決の授業」
問題解決のプロセスを小中学生でも分かるように教えてくれます。
▼記事
「デザインKPIツリー 1(Mikihiro Fujiiさん@ROLLCAKE Inc.)」
〈 ゴール・目的 〉の精査」で紹介したデザインの効果測定指標は、この記事をかなり参考にさせていただきました。