初めてのUXリサーチをフルリモートで実施した話(前編)
こんにちは。デザイン戦略部でUIデザイナーをしている大沼です。
このエントリーでは、未経験の方向けにUXリサーチのはじめの一歩を共有します。
自分なりの問題意識からUXを勉強し始め、いざ実行にうつそう!と思った時
どう始めて進行していけばいいのか、実践のイメージが出来ていませんでした。
他社の取り組みからヒントを得ようと、Webの記事を読んだりセミナーに参加してみたのですが、
自分が知りたいような具体的な事例はなかなか見つからず・・。
そこで、自分が初めて実施したUXリサーチの軌跡をなるべく端折らずお伝えすることで
同じような境遇にある方のお役に立てるのではないかと考えました。
ひとつに収まる長さではなかったので前、後編に分割しました。
実践から学んだことや注意点を各プロセスで「ポイント」としてまとめています。
こんな方におすすめ
- 細部のユーザビリティだけでなく体験設計に課題感を持っている事業会社のデザイナーさん
- 開発プロセスが定型化していてどうユーザー視点を取り入れたらいいか悩んでいるPMさん
- その他役割に関わらず、ユーザー調査・分析(以後、UXリサーチ)の必要性を感じている方
もくじ
前編
後編(※近日公開予定)
- 〈分析〉
- 〈施策立案〉- 体験コンセプト設計
- 〈評価〉-プロトタイプ
- 〈評価〉- コンセプトテスト
- まとめ
1. やったこと全体像
リサーチは人間中心設計(HCD)の基本プロセスに則って実施しました。
現行の案件進行と比べると、施策検討の前段階から入り込んでるのが大きな違いです。
同時に、自分ひとりだけでは実行できないこともお察しいただけると思います。
社内へのUX浸透が難しい要因はこれだと思うのですが、人を巻き込む必要があるということ。
UXリサーチはじめの一歩は、ユーザー調査の必要性を訴え、実施の了承を得ることでした。
UXデザインの推進には避けては通れない最初の壁かもしれません。
実施に至るまでの経緯
ある時事業部から、この機能の改修を考えてるのでちょっと相談させて欲しい、というお声がかかりました。
話を聞いてみると、まさにユーザーリサーチを起点とした体験設計が効果的と思われるような内容でした。
これはチャンスかも・・!と思い、まずは調査から始めさせてもらえないかと提案をしました。
その時伝えたことは、
- その課題解決には、ユーザーが現状抱えている課題を探る必要があること
- そのためにユーザーリサーチをさせて欲しいこと
- こちらで音頭をとるので一緒に調査に参加して欲しいこと
加えて、制作までの流れと工数をざっくり説明。結果、ご理解いただき実施できることになりました。
事業部の方には忙しい中協力していただき、本当にありがたかったです。
ポイント
- チャンスをうかがう
- 比較的始めやすい案件は既存顧客に向けた改善系施策
- (身も蓋もないけど)勇気を出して関係者に働きかける
リサーチ概要
リサーチ対象:事業者専用仕入れサイト「SUPER DELIVERY」の出展ユーザー
実施メンバー:デザイン戦略部から2名と事業部から2名
ワークに使用したツール:miro
かかった期間:
3カ月半(※他業務と並行で実施)
内訳
①ヒアリング&②調査:1か月
③分析:1か月
④施策立案:3週
⑤設計&⑥評価:3週
2. 〈課題設定〉ゴールを明確に設定(=何のためにリサーチするか)
まずは何を解決したいか事業部のメンバーにヒアリング。
契約企業の増加もあり、出展準備のサポートおよび運営開始後のフォローコストの増大が課題になっていました。
この状況をシステム側で解決し、ユーザー自身でスムーズに出展できるようにしたい!というのが事業部の要望です。
これをゴールに設定し、この課題を解決するには調査で何が明らかになればいいのか?を明確にしました。
▼ビジネス要件
出展準備段階および出展まもないユーザーが自力で出展作業できるよう改善を図り、サポートコストを削減する。
▼調査目的
上記を改善するため、
出展準備から直後におけるユーザーのありのままの利用状況を把握する。
そこからユーザーが求めているが満たせていないニーズ(潜在、顕在問わず)を明らかにする。
ポイント
- 事業部側で達成したいこと(=ビジネス要件)と、それには調査で何を明らかにすべきか(=調査目的)を分けて定義するのが重要。前者は目的で後者は手段。
- 調査目的は「これが分かれば何をどう作ればいいかがわかる」ようになっていれば〇。
3. 〈調査〉- 事前 スクリーニングで調査に適した人を選ぶ
調査の目的が決まったら即インタビュー!ではなく、インタビューに参加いただく被験者を選ぶ必要があります。
アンケートによって、より有意義な情報を得られる可能性の高い人を抽出します。
「スクリーニング調査」と呼ばれるもので、本調査の前にセットで実施するものです。
(スクリーニングには「ふるい分け」や「選別」という意味があります)
以下のプロセスで実施しました。順を追って説明していきます。
3-1 調査に適した人を決める
有益なデータを得るにはどんな人に来てもらいたいか、という視点から条件を決めます。
一般的に有益なデータが得やすい被験者:
- 集団を代表するような平均的な人
- 調査対象に対して関心がある人
- 過去の記憶が新しい人(正確な事実が聞ける可能性が高い)
今回のケースで当てはめるとこうなりました。
来て欲しい人:
- 実作業の担当者
- 出展から日が浅い人
対象外の人:
- 販売意欲が低い人
- 取り扱い商材が特殊
- 基本的なPC操作がおぼつかない人
- 掲載商品点数が中央値から大きく外れる人
ポイント
- リテラシーや意欲が低すぎる場合、サービスの本質的なインサイトを得にくい可能性があります。
- BtoBサービスは作業者と決裁者が異なるケースも多いです。何を聞きたいかによってスクリーニングが必要です。
3-2 選別できる設問を作る
選別の条件が決まったら、次はそれをふるいにかけるための設問に落とし込みます。
この設問でこの選択肢を選択したら対象から除外する、という風に設計していきます。
miro上で作成し、大方固まった段階でGoogleフォームで設定しました。
例)意欲の度合いが低い人を選別するための設問
- 設問「売上アップのためにやっていることを教えてください」
- 回答「特にやっていることはない」を選択した人は除外
例)実作業を担当していない人を選別するための設問
- 設問「出展前は個別登録、CSV登録どちらの方法で商品を登録しましたか」
- 回答「自分は登録していないのでわからない」を選択した人は除外
設問は答えやすいように、抽象度の高いものから徐々に具体的になるように並べます。
初対面の人と話す時にいきなり込み入った質問をしないですよね?
それと同じ感覚を意識すると流れが自然になるかと思います。
ポイント
客観的事実を聞く
意欲を見極めるための設問で、なぜ「販売意欲はありますか」と直接聞かないのだろう?と思われた方も
いるかもしれません。しかし「意欲がある」の基準は人によって違いますし、気分やさじ加減で
変わる可能性があります。抽象度の高い問いに対してYES/NOで回答させると、同じ選択肢を選んだ
人の中にグラデーションができてしまい選別の精度が下がるので注意が必要です。
回答は選択式にする
対象を除外しやすいように、回答は自由入力ではなく用意した選択肢を選ばせるようにします。
3-3 アンケートを配信する
配信対象の顧客リストを作成してメールでアンケートを配信します。
文面にはアンケートの目的と締め切りを記載しました。
3-4 インタビュー被験者を選ぶ
Googleフォームから回答をDLしてエクセルで集計。選別用の設問でフィルタをかけます。
その中からより最適な人を選ぶために、候補者に優先度を付けました。
優先度の軸
- 出展してからの日が浅い人
- 優先度高 ~3ヵ月 > 4~6ヵ月 > 7~12ヵ月 優先度低
- 商品掲載数が中央値に近い人
- 優先度高 中央値±30 > 中央値±50 > 中央値±80 優先度低
- 取り扱い商材が特殊でない人
- 優先度高 主要ジャンル > 特殊ジャンル 優先度低
ここまできたら、優先度の高い候補者から順にインタビュー協力のお願いをします。
目標の5名のアポ取りが完了した時点で、被験者の選定完了です!
インタビュー被験者を5名にした理由
以下のグラフは、5人のテストでそのサービスにある約85%の問題を発見できるということを示しています。
ユーザビリティテストに関する公式なのですが、ユーザーインタビューでも同じような傾向があるそうです。
最低3名で実施する場合もあるようですが、初回なのでスタンダードの5人で試してみることにしました。
スクリーニングと同時並行でやっていたこと(※おまけ)
スクリーニングアンケートは本来、被験者を抽出するためだけに行うものです。
しかし実は今回、
どのあたりに課題がありそうか(あるいはなさそうか)大まかに探るための設問も仕込んでいました。
1時間という限られた時間でインタビューを有意義なものにするために、
課題の度合いが大きい箇所に時間を割きたいと思ったのです。
広い海でやみくもに網をかける前に、魚群探知機で魚の居場所を大雑把に捉える みたいなイメージです。
事業部が目指している最終ゴールは、
ひとりでも多くの出展ユーザーがサポートの力を借りずに作業を完結できるようになる こと。
そのために調査で、
多くの人が共通して抱えている課題を見つける 必要があります。
そこへ効率よく近づくため、量的に測ることができるアンケートを
+αの判断材料として活用しました。
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仮説A:商品登録の操作に手間取り自力での作業に苦戦。出展後の商品追加の妨げにも繋がっているのでは
仮説B:出品サイクルや販促などの販売戦略をどう立てたらいいか分からず出展後の動きが停滞しているのでは
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※サポートスタッフにも会議に参加してもらい、現状把握したうえで最も大きいと思われる仮説を設定。
結果からわかったこと
仮説Aの結果:△ 操作性に関する課題は主要な課題とは言えない
- 出展後に商品追加をしていない理由のほとんどが企業サイドの事情(こちらでコントロール不可)だった
- 欲しい情報や受けたいサポートで「管理画面の操作方法についてのレクチャー」を選択したのはわずかだった。
仮説Bの結果:◎ 多くのユーザーに共通した課題である可能性が高い
- 利用前に想定(期待)していた月間売上に達していないと回答した割合が多かった
- 現状以上の売上UPを目指していて、施策も打ってはみたが結果がでていないと感じている割合が多かった
- 欲しい情報や受けたいサポートで「売上戦略」と「他社事例」と選択した割合が一番多かった
これを受け、インタビュー実査では操作性の質問は主軸に置かず
売上戦略にまつわる課題の深掘りを加えることにしました。
スクリーニング調査の本筋からは多少ズレてしまいましたが、
リサーチを短時間で効率よく回すための工夫のとして共有しておきます。
4. 〈調査〉- 本番 インタビューでユーザーの利用文脈を知る
いよいよ、ユーザーインタビューでユーザーの実像を質的に明らかにしていきます。
実査では仮説は一旦横に置き、とにかくフラットな目で「ユーザーの利用状況をありのままを知る」こと。
そして「そこにある課題を発見する」ことを目的に調査に臨みました。
4-1 インタビュー調査手法を選ぶ
ユーザーのことをより深く知るため、
- 事前調査でニーズがありそうだった販売戦略や他社事例について理由を掘り下げたい。
- 作業単体ではなく、出展前に抱いた期待から実際の準備作業、運営開始後に至るまでの利用文脈を流れで把握したい。
- どんな風に操作をしているのか、禁断でリアルな普段の様子をのぞき見したい。※ユーザビリティに偏らず
と考え、観察とインタビューを組み合わせたコンテクスチュアル・インクワイアリーという手法を使って調査することに。
全員に聞く質問をいくつか決めつつ、発話の中で適宜深掘りできるような自由度も持たせることにしました。
これは半構造化インタビューといわれる形式です。採用面接をイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。
4-2 インタビューガイドの作成
インタビューガイドは、実査の際に使う質問票です。
アンケート設計と同じように具体的な質問から入り、時系列で質問していきます。
大まかな構成
- アイスブレイク、流れを説明
- 被験者の会社での役割、業務
- 出展する前の想定や期待について
- 利用開始~出展準備について&操作を観察
- 出展直後~運営について
- 全体を回顧した率直な感想
構造を決めたら、次は具体的な質問を作っていきます。ざーっと書いていってあとでボリュームを調節。
調査は1h/人の予定なので、絶対聞きたい!という箇所に☆印をつけて優先順位をつけました。
4、5セクションを厚めにしたかったので、時間配分も多めにしました。
※インタビューガイド
ガイドができたら社内の人に協力してもらってテスト。やってみると思った以上にさまざまな問題が出てきます。
意図が一度で伝わらず聞き返されたり、後半の質問が収まらなかったり...。
質問を入れ替えたり、言い回しを変えたりしてひとつずつ潰していきました。
実践に近い形でテストすることで、時間感覚を掴めたり、もっとここ掘り下げるべきだった、
というのも見えてくるので本番前の点検は必ずやることをおすすめします。
ポイント
画面外のタスクも含めて聞く
UXは時間軸で捉えるべきという考え方があります。(※UXタイムスパン、UXタイムラインで検索してみてください)
アンケート結果から多くの人にとって共通課題として浮かび上がったのは、売上戦略に関する困りごとでした。
関連する画面でいうと販促機能や商品登録画面です。しかし画面内についての質問に限定してしまうと仕様や
操作性などの表面的な話に終始してしまうことになりかねません。
ユーザーの本質的な欲求や不満を明らかにするためには、行動や感情の動きを流れで把握できるよう、
知りたい箇所の前後関係、さらにいえば利用前の期待値から探っていく必要があります。
質問は聞き方がぶれないように話し言葉で作る
聞き方に差が出ると、被験者によって質問意図の解釈がずれて違うことを返答されることがあります。
分析で判断に困ったことがあったので、質問スクリプトを固定させると良いのではと思います。
クローズドな質問が絶対だめなわけじゃない
リサーチ系の書籍では、必ずと言っていいほど「YES/NOで答えられるクローズドな質問は避けるべき」と書いてあります。
最初はそれをしっかり守ろうとしていたのですが、どうしても唐突だったり不自然になってしまうケースがありました。
一緒に作ったメンバーと色々悩んだ結果、クローズド質問を使ってワンクッション置いたあとに、本筋の質問に
展開させるようにしました。最終的にWHYやHOWが聞ければいいので、そこまでの道筋で使うのはアリなのではと思います。
4-3 リクルーティングと日程調整
事前調査でピックアップした対象者に、メールでインタビューのオファーを出します。
簡単な調査趣旨の説明と所要時間、zoomで実施する旨などを記載。
OKいただけた方から順次日程調整して実施日を決めます。ガイド作成をしている期間に並行で
事業部のメンバーにやってもらいました。
4-4 ユーザーインタビュー実査
いざ、インタビューです。インタビュワー1人、速記係2人、聞く係1人で役割分担しました。
実査後に書き起こす場合も少なくないと思いますが、同時並行で速記すれば実査とほぼ同時に終わります。
2人でやると書き漏らしも減らせるので圧倒的に時短になりました。
聞く係は客観的な立場から、途中zoomのチャットを使って指示やフォローに回ります。
実査が終わったあとは全員で集まり振り返りの時間を設けました。
「この人の関心ごとはこのあたりが強かったね」とか「こんなやり方してたとは意外だった」という
ような感想を記憶が新鮮なうちに記録しておくと、分析の際に見返すことができるのでとても役立ちます。
メンバー間で共有し合うことで理解も深まっていった気がします。
※発話データ
ポイント
ガイド通りにやろうとしすぎると深堀りが甘くなる
一発目は特に、ちゃんと全部聞かなくちゃ!時間内に収めなきゃ!という気持ちが強すぎて被験者の発話から
話を広げていく心と時間の余裕がなかったです。終わったあとに聞きたかったことがパラパラと出てきてしまいました。
ビビって少々かっちりめにガイドを用意してたのですが、マスト質問が多すぎたようです。
次の回からは少し絞って余白を作るよう調整しました。
理由を聞きたいときは「なぜ」「なんで」と言わない
あるタスクで、なぜそのフローでやっているのか知りたくて「なぜ?」を投げかけたことがありました。
すると何回目かのターンで「運用も回ってるので、このやり方でいいのかなと思ってます」という返答が。
その時ハッとしました。
「なぜ」とか「なんで」という言葉は直接的すぎて、ちょっと責められてる感じがしてしまうんですよね。
「~するのって何か理由があったりするんですか?」という聞き方にすると、興味があって聞いてる感が出て
ポジティブに受け取られるようになったと思います。
うっかり誘導に気を付ける
会話の中で発言の意図がつかめなかった時につい出てしまう相槌、「要するに~ということですか」。
普段の会話では自然にやってることだと思います。しかし、初めて会った相手には遠慮があるので、
違ってたとしても訂正しづらいし、うまく言語化できず待たせるのが申し訳なく思えて、そんな感じです!と
答えてしまう可能性があります。答えに悩んで間が空いてしまった時も、つい助け舟を出したくなりがちでした。
言ったことに対し、無意識に浮かんでくる「もしかしてそれって〇〇だから?」を検知したら、〇〇は口に出さず
それをWHYやHOWの質問で聞いていくようにしました。
自分たちは何も知らないという前提に立つ
出展側のユーザーは販売ページをあまり見ていないという通説?があり、自分たちもそういう認識でいました。
しかし話を聞いていくと、多くの被験者が他社のページを見に行ってお手本にしている実態が明らかになりました。
フラットにWHYやHOWを探っていった結果、他にも意外な発見がいくつも見えてきたのです。
逆に言えば、「たぶんこう使ってるだろうから」「こうする以外にないだろうから」と、質問や深堀りをしなかったら
得られなかった情報でもあります。リサーチを始める前にUXリサーチの専門家の方に教わった心構えなのですが、
手法やテクニック以前に心得るべきマインドセットだと感じました。
ここまでが課題設定からユーザーインタビューの実査までのお話でした。
後編では分析、設計、評価で実施したことについて共有したいと思います。