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目標設定にもアジャイル思想を!複数の目標に対する向き合いかた

こんにちは、たむらです。今回は、目標設定に関するお話です。
皆さんの会社では「目標設定」がありますか?また、それにどの様に取り組んでいますか?評価に係わるから頑張ろうと思う人もいれば、毎年目標設定を憂鬱に感じる人もいるのではないでしょうか。
今回は、会社の目標そのものを分解しつつ、会社の目標や自身の目標にどの様に取り組んでいけば良いのかを考えてみたいと思います。

会社でよくある目標設定

デファクトスタンダードなMBO

さて、企業の目標設定というと、MBO(Management by Objectives)がまず真っ先に出てくるかと思います。P・ドラッガーが提唱した手法で、「マネジメント層からの指示ではなく、自己管理によるマネジメント」により業務の効率化・利益の向上といった会社のニーズ達成と、従業員の能力・モチベーションの向上の両取りをしようというものです。
MBOにも幾つかのやり方がありますが、日本では、従業員に自らの目標を設定させ、個々人のモチベーションと自主性を引き上げようとする形(組織活性型)で運用しているところが多いようです。自分が何をするか?を自身が考えることになるので、「毎年毎年目標なんて考えられないよ・・」とシンドい思いをしている人も多い部分かもしれません。

Googleが採用して注目されたOKR

OKR(Objectives and Key Results)は2000年頃からGoogleで利用され始め、その後様々な会社でも採用されるようになった目標設定のフレームワークです。1つの組織的な目標(objective)を定義し、それを複数の指標(key results)で測定するという形式で、会社の目標を組織、チーム、個々人へとブレイクダウンしていき、組織的に企業課題を達成させるためのアプローチが取られています。会社の目標と組織目標~個人目標を一気通貫に紐付けられるのは大きな魅力ですが、上意下達の一方通行&ウォーターフォールになってしまうこともあり、設計が難しい一面もあります。

KPIやKGI

目標設定で他によく聞くのはKGI(Key Goal Indicator)KPI(Key Performance Indicator)でしょうか。でも、これらはあくまで「指標」であり、目標設定のフレームワークではありません。よく「OKRとKPIの違い」などのWeb記事がありますが、そもそもレイヤーが異なるものです。
また、KPIやKGIはプロダクトやプロジェクトといった単位で定められることが多く、その指標は個々人というより事業そのものに紐づくことが多いのですが、KPIの目標数値を個人の目標とされる様なケースはままあり、その結果目標設定のレイヤーでもKPIというワードがよく出てくることになります。

でも実は他にもあるよね・・・

上記のように、MBOやKPIはよく聞く目標関連のワードですが、では果たして企業や会社が持つ目標というとそれだけなんでしょうか?
例えば、「経営理念」。ラクーンでは ”企業活動を効率化し便利にする” という経営理念を掲げていますが、これも企業が目指す目標といえるものです。また、昨今では「Vision」「Mission」「クレド」「パーパス」といったものを掲げる会社も増えています。更に、企業は事業年度単位に経営目標や予算を持つことが多いと思いますが、それも目標ですよね。更には中期経営計画があったり、部門目標、チーム目標があったり、よくよく探してみれば、会社には本当に様々な目標が設定されているんじゃないかと思います。それぞれの目標は重なっている部分があったり、時系列が異なっていたり、観点が異なるものだったりすることでしょう。さてこのような場合、それらの複数の目標をどう捉えればいいのでしょうか?

会社には本当に沢山の目標がある

すこし余談になりますが、実はラクーンでもつい最近上記で挙げたような混乱が起きていました。今年度中期経営計画を策定し中長期的な方向性を打ち出したはいいものの、ある施策を検討する時に「これは中経に対する施策?それとも暫定的な満足度向上の施策?」とか、「短期と中期の目標どっちを優先すればいいの?」など目的に対するコンセンサスを得るのがより複雑になってしまった印象があります。

社会人の目標に対するアプローチ

目標とは何か?

さて、目標とはそもそも何でしょうか?『精選版 日本国語大辞典』では、「ある物事をなし遂げたり、ある地点まで行きついたりするための目印」と定義されています。
言い換えれば、「まだ手に入れられていない/到達できていないものを指し示す」ものだということが分かります。既に今時点で得られている/到達しているものであればそれは当然目標になりようがありません。つまり「目標」は現在の状態と距離があるもので、その距離を「成果」や「成長」により縮めるために設定されるものなのです。

これは複数の目標があったとしても成り立ちます。どの目標も現在の状態よりも良い状態を指し示している筈です。この場合、複数の目標は上記に挙げたOKRの様に全部の目標に一貫性があるのが望ましいのでしょうが、現実的には時系列の差異や視点による差異、表現の差異など様々な要因で、別のものと見えることが大半だと思います。ただ、どれも今よりも良い状態を指し示している というのがポイントです。

この前提を踏まえた、先程の「複数の目標の捉え方」に対する私の答えは以下です。

1. 優先順位やアプローチの仕方の指示がないならば、そこは本人に委ねられている
(=ゴールへのアプローチに必要な空白は自分で埋める)

それぞれの目標に対する細かな優先順位や目標に対する実現方法の指示が上司からないのであれば、それは本人に委ねられているということです。その場合、自分で適切なやり方を見つける部分も仕事のうちとなります。

人によっては路頭に迷う感覚になるかもしれませんが、実は自分のスキルや意思を載せて業務ができるという大きなメリットがあります。例えば、自分は人に教えるのが得意だから中期経営計画の「研修強化による人材育成」に取り組み成果を出そうとか、品質管理のスキルを伸ばしたいからチーム目標の「成果物の品質向上」のアクションをしよう、など自分の裁量で取捨選択することができます。そもそも仕事というものは、ロボットが行うようなルーチンワークでない限り、創造性を必要とするものです。目標は「顧客数前年比120%」などの最終的なゴールを示すものの、そこに至る為の手段は分からないことが殆どです。それをどうすればゴールに到れるかを考え、試行錯誤することが仕事の本質であり、醍醐味なのではないかと思います。

2. 複数個の指針や目標が立つのが組織では普通。それらの重なる方向性を指針とする
(=複数の目標は大局で押さえる)

また、複数の指針や目標がある際にその内容の精査をするのであれば、「全ての目標に一貫性があるか?」を測るより「今時点で内容に背反する部分がないか?」を確認する方が良いでしょう。
この際、ポイントとなるのは、「今時点から見て、それらの目標がどの方向にあるか?」です。先程述べた通り、それぞれの目標は今と比べて離れた地点にある筈で、近づけばそれぞれの目標間にも差がでてくる筈ですが、今とそれぞれを比較すると、向きとしては同じ方向を向く場合が多いのではないかと思います。そして、その(目標たちの)方向性を指針として扱えば良いのです。最大公約数的に捉えても良いし、中心にありそうな目標に焦点を当てることもできるでしょう。

・・・とはいえ、大きな目標や遠い目標は曖昧で、方向性も中々イメージできないというケースもあると思います。その際は、SMARTの法則を簡易的に行ってみると良いかもしれません。
SMARTの法則とは、1981年にジョージ・T・ドラン博士が提唱した古いものですが、最近また注目をされている目標作成のための考え方です。Specific (具体的)、Measurable (測定可能)、Achievable (達成可能)、Realistic (現実的)・Relevant(関連性)・Related(上位目標とのリンク)、Time-bound (期限がある)の頭文字を取ってSMART法則と呼ばれています。

SMART法則に則った目標作成の典型的な例

SMARTのステップ 概要
用意されている目標 顧客数を増やし売上を伸ばす
Specific(具体的な) 顧客数・売上という指標が明確
Measurable(測定可能な) 昨年度より5%の顧客数増加、8%の売上向上を目指す
Achievable(実現可能な) 一昨年も8%売上を伸ばせており、顧客数も市場規模に対してまだ獲得ができる段階である
Related(上位目標とのリンク) 中期経営計画でも売上と利益率がKPIとなっており、それにも適っている
Time-bound(期限を定めた) 今年度末まで
SMARTを用いて設定した明確な目標 今年度は昨対比で顧客数5%増、売上8%増にする

実際のSMART法則を用いた目標設定は上記の様なものですが、曖昧な目標(=大きな目標や遠い目標)をSMART法則に則って解像度を上げていくと、より具体的な目標にできることが分かると思います。この具体化の過程で、身近な目標とリンクできるところが見つけられると、指針の方向性に対してより具体的なイメージが持てるかもしれません。

SMART法則を用いた目標間のリンクの例

SMARTのステップ 概要
中期経営計画 開発生産力を高める
Specific(具体的な) 開発に関わる人件費、リリース回数 の2つを開発生産力の指標として定義しよう
Measurable(測定可能な) 人件費のコスト、リリース回数を3年で2倍にすることとしてみよう
Achievable(実現可能な) 今のエンジニア数10名を3年後に20人にするなら、年間3名位ずつは採用する必要があるな…
リリース回数の向上は人が増えればできる?あとはテストを自動化すれば早くリリースできるかな…
Related(その他の目標とのリンク) 今年の部門の目標でCI/CDの改善を謳ってたからテスト自動化は中期経営計画の目標ともリンクするな…
Time-bound(期限を定めた) 今年度末まで
中期経営計画と今年度部門目標を絡めた具体的な目標 今年度はテスト自動化を全システムで導入する

ざっくりイメージを持つのみであれば、 ”Related” 迄やれば十分だと思いますが、目先の目標の具体化にも繋げることもできると思います。



ちなみに、もし今時点で既に背反するような目標と感じるものなのであれば、それは上司に意図を確認しましょう。「品質を上げつつスピードも上げよ」など一見矛盾することでも話を聞いてみたら同じことを言っていたみたいなこともあったりします。

3. 進むべき向きが揃っているならばそれは指針足り得る。その向きに行動や仮説立案を行う
(=細かな整合性は気にせず、齟齬は顕在化してから考える)

目標(たち)の方向性は何となく分かりました。では、この後どうすればいいんでしょうか? 答えは、これで終わりです。
だって、一先ず今どちらに進めばいいかは分かっているならそれで十分指針になりますよね?品質管理と同様、完璧を求めるとコストは終盤極端に大きくなってしまいます。具体的な整合性や齟齬の確認をすることは気持ちとしてはスッキリするかもしれませんが、費用対効果を考えるとそれに大した意味を見いだすことはできません。その時間があるなら、さっさとその方向に向けた行動や戦略を練ることに時間を割いたほうが有意義です。

4.そもそも指針や目標は「正解」ではない
(=示されたゴールが間違っている可能性を忘れない)

更に指針や目標について補足すると、そもそも指針や目標は正解ではないと考えるべきです。
私は役員に就任してから強く実感したことがあります。それは、「経営に携わる様な人間でも沢山の間違いや失敗はある」ということ。ごくごく当たり前のことですが、これはつまり会社が立てた目標も当然間違っている可能性があるということです。
指針や目標が正解だと思ってはいけません。その目標や指針は立てた人が「その時正解だと信じたもの」というだけなのです。よって当然疑って付き合うべきですし、必要があれば適宜見直しをするべきものだと思います。

(蛇足)あれっ?これ何かの考え方に似てる・・・

完全に蛇足・・・といいつつタイトルに繋がる部分なのですが、上述の 3. や 4. 辺りの話は、アジャイル開発の思想にも通じている気がしませんか?
「全部の整合性を担保するウォーターフォール的なやり方をしない」とか「全体計画は粗めに立て、目先のアクションに関して解像度を上げる」、「繰り返し検証し改善することで早くあるべき正解(目標)にたどり着く」などがまさにアジャイル的な部分じゃないかと思えます。
(ただ単に私がアジャイル開発の思想に影響されすぎているだけかも・・・(笑))

どちらにしても、今の世の中はVUCAと呼ばれる不安定で見通しが立てにくい時代です。いざという時に機敏さを保てるよう目標設定もアジャイルなものであるべきなのかもしれません。

終わりに

いかがでしたでしょうか。
当然目標なんてシンプルな方がよく、ゴール設定も一つまたは一つに紐付く形に定められるならそれに越したことは無いと思います。ですが、会社のステージの変化や世の中の情勢、景気、業績など色々な要件が多層的に影響し、多くの指針が示されることはある意味やむを得ないことです。それらに相対し迷った時に、少しでもこの記事が参考になってくれれば幸いです。

まとめ

さて、ラクーンでは一緒に働く仲間を大大大募集中です。
プログラミング大好きは勿論、事業に沿ったサービス開発がしたい人、こういった能書きチーム運営に興味がある人など幅広く求めておりますのでぜひ興味があればご応募して下さい!
それでは。

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