【皮相電力と消費電力】サーバ管理者が知っておきたい電気の話
こんにちは。インフラ担当のいせです。
サーバの電源管理では、皮相電力(VA)など普段は聞き慣れない言葉が登場します。
電源やUPSを調達する際に「消費電力が足りていればOK」と考えていると思わぬ落とし穴にはまることもあるかもしれません。
今回はそんな電源にまつわる用語について解説します。
なお、この記事では直感的なわかりやすさを優先するため、厳密には正しくない表現がされている場合がありますのでご注意ください。
今回説明する用語
- 電圧・電流・電力
- 実効値(実効電圧・実効電流)
- 皮相電力・有効電力(消費電力)・無効電力・力率
まずは直流で考える: 電圧/電流/電力
サーバで使用される電源は交流(AC)100Vや200Vの場合が多いですが、交流だと話がややこしくなるので、まずは直流で基本的な用語を確認しておきます。
電圧
電圧とは直感的に説明すると、「電気を流そうとする力の強さ」を表す言葉です。
単位はV(ボルト)です。
物質によって電気の流れやすさ(=電気抵抗)がことなります。
例えば銅などの金属は電気が非常に流れやすいですが、木材などは電気が流れにくい物質です。
銅の場合は乾電池のような電圧が非常に弱い電気でもたやすく流れていますが、木材に電気を流すには雷のような非常に電圧の高い電気が必要です。
電流
電流とは、「どれだけの量の電気が流れたか」を表す言葉です。
単位はA(アンペア)です。
同じ物質(=電気抵抗が同じ)に電気を流す場合、電圧を強くすると「電気を流そうとする力の強さ」が強まるため、より多くの電流を流すことができます。
電力
電力とは、電圧と電流を掛け算した値で、電気がどのくらい働いたか?ということを表します。
単位はW(ワット)です。
電圧 × 電流 = 電力
電力が大きいほど、電気がたくさん仕事をしたということです。
例えば30Wと100Wの電球であれば100Wのほうが強い光が発生し、800Wと1000Wの電子レンジであれば1000Wのほうが短い時間でお弁当を温めることができます。
電力は電圧と電流の積なので、例えば電流を減らしたとしてもその分だけ電圧を増やせば電力は変わりません。つまり電球の明るさは同じということです。
実効値: 交流の場合の電圧と電流
いよいよ交流の話にはいります。
交流は直流と異なり電源のプラスとマイナスが素早く入れ替わっています。プラスとマイナスが入れ替わり、また元に戻るという動きを1秒間に50回(東日本) or 60回(西日本)のペースで行っています。
プラスとマイナスが入れ替わる際には急に切り替わるのではなく、以下のグラフのように徐々に電圧が変化しながら切り替わっています(グラフは東日本の場合、西日本の場合は山一つが約8.3ミリ秒)。
そして、電圧の変化と同じように電流も変化しています。
電圧と電流が常に変化している交流では、直流の場合のように簡単に電圧・電流を表現することができません。
そこで、交流の場合は「直流に換算すると電圧や電流はどのくらいになるか」というようにして表します。
直流に換算した値のことを実効値と呼び、電流の場合は実効電流、電圧の場合は実効電圧と表記します。
家庭用のコンセントの電圧は100Vということは一般的に知られていると思いますが、この100Vというのが実効電圧です。
実効電圧が100Vの場合、最大値は約141Vとなっています。
皮相電力: 交流の"電力"は電圧×電流では不十分?
直流の場合、「電気がどれだけ働いてくれるか」を表す電力は、電圧×電流で計算しました。
交流は電圧と電流が時間とともに変化するので計算しにくそうな感じがしますが、さきほど実効値という方法で交流の電圧と電流の値を表せるようになりました。
この実効値を使えば、交流の場合の電力も簡単に計算できそうですね。
実効電圧×実効電流 の値を(実効電力ではなく)皮相電力と呼びます。単位はVA(ボルトアンペア)です。
実効電圧 × 実効電流 = 皮相電力
あれ? なんだか違和感を感じますね。なぜわざわざ皮相電力と呼び、なぜ単位はWではなくVAなのでしょうか?
電力は「どれだけ電気が働いてくれるか」を知るために使いますが、実は交流の場合は実効電圧と実効電流の積(皮相電力)ではこの度合いを測ることができません。
交流の場合は、皮相電力のうち電気製品で使用することができない無駄な電力が生じてしまうことが原因です。
有効電力・無効電力: 交流で余分な電力が必要なワケ
なぜ交流では、電気製品で利用することができない無駄な電力が生まれてしまうのでしょうか?
この原因は、電圧と電流の変化のタイミングにズレが生じてしまうことにあります。
交流は電圧と電流が時間とともに変化しますが、この変化のタイミングは一致しておらず、電圧の変化にくらべて電流の変化が遅れる性質があります。1
この時間差によって電気製品で使用することができない無駄な電力が発生してしまうのです。
無駄になってしまった分を無効電力と呼びます。反対に無駄にならず電気製品で利用できた分を有効電力と呼びます。
有効電力と無効電力はいずれも単位はW(ワット)で表します。
電気製品は有効電力のエネルギーを使用して仕事をします。電気製品のカタログに記載されている消費電力は有効電力のことを指している場合が多いです。
実は電気製品を使用するときは消費電力(有効電力)分の電気では足りず、無効電力の分を余計に供給する必要があるのです。
力率: どのくらい無駄になるか?
皮相電力のうち、有効電力の割合を力率と呼びます。
力率は、「供給した電力(皮相電力)のうち、どのくらいの割合が電気製品で利用できるか」を表す数字であると言えます。
電圧と電流の変化のタイミングがピッタリ一致していれば力率は100%、つまり無効電力は発生せずすべて有効電力となります。ところがタイミングが山半分(=1/4周期、東日本の場合は5ミリ秒)ずれると力率は0%、つまりすべて無効電力で有効電力がなくなってしまいます。その中間で力率が50%、つまり無効電力と有効電力が半々になるのはズレが山1/3個分(=1/6周期、東日本の場合は約3.3ミリ秒)のときです。
力率は使用する電気機器よって異なります。白熱電球やコタツ、トースターなどの電熱器具は力率が100%になることが多いです。一方、モーターを含む製品(掃除機・扇風機・エアコン・冷蔵庫など)やPCは一般的には70%-80%くらいと言われています。
最近のPCやサーバでは力率を改善する装置が搭載されていることも多く、この場合の力率は90%以上になることもあります。
80 Plusという電源の変換効率に関する規格がありますが、この規格では変換効率だけでなく力率についても規定があります。80Plus認証電源を使用していれば力率は90%以上となっています。
まとめ: サーバ管理者が注意すべきこと
交流の機器を動かす場合は消費電力(有効電力)以上の電力(皮相電力)が必要です。
データセンターの電源管理やUPSを導入する際には有効電力だけでなく、皮相電力についても考慮する必要があります。
サーバなど電力が大きく高価な製品であれば皮相電力を確認しやすいですが、一般的なPCでは消費電力しかわからない場合もあります。皮相電力を考慮せずに消費電力だけで電源容量を計算すると実際に稼働させたときにブレーカーが落ちたりする可能性があるので、少なくとも3割程度余分に見積もっておく必要があります。
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- 負荷によっては電流のほうが先に変化して、電圧の変化が遅れる場合もある。 ↩